ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン教授の『ファスト&スロー』。前から読みたかったのですがとうとう読み終えました。前評判通り素晴らしかったです。

本書は、直感的思考と論理的思考を対比的に描き、いかに人間の意思決定はバイアスによってゆがめられているかを論証しています。

その具体例を見ていきたいと思います。

 

 

こんな本に書いてありました。

 

『ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) 』  (ダニエル・カーネマン)

『ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) 』  (ダニエル・カーネマン)

 

※アマゾンの紹介文より

整理整頓好きの青年が図書館司書である確率は高い? 30ドルを確実にもらうか、80%の確率で45ドルの方がよいか? はたしてあなたは合理的に正しい判断を行なっているか、本書の設問はそれを意識するきっかけとなる。人が判断エラーに陥るパターンや理由を、行動経済学・認知心理学的実験で徹底解明。心理学者にしてノーベル経済学賞受賞の著者が、幸福の感じ方から投資家・起業家の心理までわかりやすく伝える。

(著者略歴)

カーネマン,ダニエル
認知心理学者。プリンストン大学名誉教授。専門は意思決定論および行動経済学。1934年テルアビブ生まれ。幼少期をパリで過ごし、その後家族とともにパレスチナに移住。エルサレムのヘブライ大学で心理学と数学を学んだ後、イスラエル国防軍心理学部門に勤務。1958年にアメリカに渡り、カリフォルニア大学バークレー校で心理学の博士号を取得。ヘブライ大学などを経て、1993年よりプリンストン大学教授。2002年に、不確実な状況下における意思決定モデル「プロスペクト理論」などを経済学に統合した業績が評価され、心理学者にしてノーベル経済学賞を受賞

 

 

 

これが「人間の意志決定システム」だそうです。

 

 

人間の思考モードは2つのシステムによって形成されていると考えるとわかりやすい。それは以下のような2つである。

  • システム1:自動的に高速で働き、努力はまったく不要か、必要であってもわずかである。また、自分の方からコントロールしている感覚は一切ない。
  • システム2:複雑な計算など頭を使わなければできない困難な知的活動にしかるべき注意を割り当てる。システム2の働きは、代理、選択、集中などの主観的経験と関連付けられることが多い。

システム1はしばしば錯覚に騙されて、短絡的な結論を導く。これを自分で防ぐのはかなり困難であり、組織と規律の中で品質をチェックすることで、短絡的な意思決定を防ぐことができる。

 

 

 

これがシステム1が騙される例だそうです。

 

■プラミング効果(フロリダ効果)

  • 大学生に文章作成問題を出題する。そのうち1つのグループだけ、高齢者を連想させるような単語(フロリダ、忘れっぽい、ハゲ、ごま塩、皺など)を混ぜておいたところ、そのグループだけが次の教室に移動する速度が明らかに遅かった。
  • この仕掛けに気付いた学生はいなかった。つまり意識の上には上らなかったにも関わらず行動が変化したのである。

 

■見たものがすべて(WYSIATI)

  • 被験者にある事件の説明文を呈示する。その後、あるグループは原告側の弁護士から話を聞き、あるグループは被告側の弁護士から話を聞き、あるグループは両方の話を聞く。そうすると、相手側の主張もたやすく推測できるにも関わらず、一方だけ話を聞いたグループは話を聞いた側に有利な判断をし、しかも両方の話を聞いたグループよりも両方の自分の判断に自信を持っていた。
  • 自分の持っている情報だけで判断すれば筋の通った説明がしやすいため、そちらに流されやすい

 

■「尤もらしさ」による錯誤(「リンダ問題」)

  • 次のような文章を読んでもらう。「リンダは31歳の独身女性。外向的でたいへん聡明である。専攻は哲学だった。学生時代には差別や社会正義の問題に強い関心を持っていた。また反核運動に参加したこともある。」
  • そして、「①リンダは銀行員である」「②リンダは銀行員で、フェミニスト運動の活動家である」のうち、どちらの可能性が高いか?と問うと、論理的には①>②の包含関係になるのに、ほとんどの学生が①<②であると回答した。スタンフォード経営大学院で意思決定科学コースに在籍する博士課程の学生すら、85%が誤った回答をした。
  • 私たちは、「論理的な事象」よりも「尤もらしさ」を信じ込んでしまう。

 

■平均の回帰

  • スキル強化訓練において、失敗を叱るよりも能力向上を褒めてやる方が効果的であるとハト、ネズミ、ヒトなど多くの動物実験によって確かめられている。
  • だが、空軍の教官が、「実習がうまくいった訓練生を褒めてやると大抵次は失敗する。失敗した訓練生を叱ると次は成功する」と反論した。これは正しいが、褒める、叱るという行為の結果とは関係がない。
  • 回数が多くなると平均に回帰する。訓練生の出来の水準が一定だとすると、成功のあとは失敗し、失敗のあとは成功する確率が高くなる。

 

■専門家の予測vsアルゴリズム

  • 投資アドバイザーの成績の相関係数を確認したところ、0.01であった。つまりアドバイザーのスキルに差があるという統計的な証拠はなかった。
  • 政治・経済動向に関する評論と助言の提供で生計を立てている評論家284人にインタビューし、いくつかの出来事が起きる可能性を予測してもらったところ、あてずっぽうで当てる成績と大差なかった。
  • ワインの価格予想として、3つの気象情報だけを当てはめて作った計算式の精度は高く、実際の価格との相関係数は0.9を上回り、専門家の予測より正確だった。

 

■プロスペクト理論

  • 損得両方がありうるギャンブルでは、起こりうる損失が起こりうる利得の2倍も強く感じられるため、損失回避になり、極端にリスク回避的な行動をとるようになる。
  • これに対して、確実な損失と不確実だが大きな損失というように、どう転んでも損をするギャンブルでは、損失の感応度が逓減し、リスクをとる行動をとるようになる。

 

■保有効果

  • 人気バンドのライブチケットを手に入れたくて、500ドル出しても惜しくないと思っていたところに、運よく200ドルで買うことが出来た。ここで、1000ドルで出すから売ってくれと割れても、大抵の人は手放さない。この場合、チケットは、購入時には500ドル程度の価値と見なしているのに、売却時には1000ドル以上の価値と矛盾する位置づけている。
  • これは、手に入れているものを「手放す」という苦痛が生じ、手に入れる喜びよりも手放す苦痛の方が大きいため(プロスペクト理論から)、生じるものである。

 

■サンクコスト

  • ある映画のチケットを160ドルで購入し、このチケットを紛失してしまった場合に、再度チケットを購入してでも映画を見るべきか否か。
  • この場合、失くした160ドルは戻ってこないので、純粋にその映画に160ドル以上の価値があるかが判断基準になる。しかし、人は「その映画に320ドル分の価値があるか」という基準で考えてしまいがちである。

 

■ピークエンドの法則

  • 苦痛(または喜び)の主観的な大きさの記憶は、ピーク時と終了時の苦痛(喜び)の平均でほとんど決まる
  • 苦痛(または喜び)の持続時間は、主観的な総量にほとんど影響を及ぼさない。
  • これは人生にも当てはまる。ジェンという架空の人物の人生を設定し、シナリオ1では仕事や旅行を楽しみ、大勢の友人に恵まれ、趣味にいそしむという非常に幸せな一生を送り、30歳または60歳で死亡するとする。シナリオ2では、そこに5年ほど加わり、あまり幸せではない時間を送った後、35歳または65歳で死亡するとする。
  • すると、彼女の人生を評価してもらうと、寿命が倍になっても幸せへの評価はあまり変わらず、象徴的な時間によって代表されていることがわかり、また「あまり幸せではない5年間」が加わっただけで、幸せの評価は大幅にダウンした。

 

 

上記をどう考えれば良いか。

 

すべてが非常に示唆に富む傾向性です。僕自身が日常に活かすとしたら、こんなことかなということを簡単にまとめてみようと思います。

  • 他人もしくは自分をある行動に向かわせたかったら、その行動を暗示する言葉をかける。(フロリダ効果)
  • 相手を説得するときは、「尤もらしく、相手が乗っかりやすいストーリー」を作る。(リンダ問題)
  • いいことは長時間じゃなくていいので、ちょこちょことやり、最後に持っていく。イヤなことは最後にまわさない。(ピークエンドの法則)
  • 「専門家の予測」は信じなくて良い。(専門家の予測vsアルゴリズム)
  • 失敗したとわかったら、「損切り」は早めに。「払った分は元をとらないと」という考え方はサンクコストの錯誤である。(サンクコスト)

 

 

私的な今日のまとめ。

 

  • 向かわせたい行動を暗示する言葉をかけよう
  • 説得するための尤もらしいストーリーを作ろう。
  • いいことは最後に。悪いことは最初の方に。
  • 専門家の予測を信じるな。
  • 損切りは早めに。